<Club Classics>
『〜クラブシーンなんて小さなもんだったけど、何処よりもカッコよかった〜』 今を遡ること10数年。時代は80年代中半。この頃、大衆化され商業化されてしまった「ディスコ」にとって変わる遊び場が出現し始めた。そこには、画一化されてしまった「ディスコ」では決して聴くことのできない新鮮な音楽に溢れていた。お洒落であるはずのドレスコードが決められていた「ディスコ」なんかよりも、古着のジーンズに革のライダースジャケット、キャスケットにハンチング帽なんかで各々が個性を自由に表現していた。ぼくには断然こちらの方が刺激的な魅力に溢れ、そこに集まる人達みんながお洒落でカッコよく感じられたのだ。そんな場所がいくつかあった。その類いの遊び場は「クラブ」といわれていた。まだ「クラブ」なんていうと、大抵の人は綺麗なオネエちゃん達が接客する飲み屋を連想してたっけ。まぁ、ぼくらが当時夢中だった「クラブ」というのは、それくらいアンダーグラウンドなものだった。それだからなのか、あるいはそれにもかかわらずなのか、その「クラブ」に集まる人達は誰もが皆本当にカッコよかった。なかにはそれまでテレビや雑誌でしかお目にかかれない芸能人や文化人も結構いたりもしたけど、そんな連中が、名も無い音楽好きの若者達と一緒に踊ってたり、バカやってたりするのが、なによりも面白かった。年令も社会的地位も収入も全然違うであろう人達が集い、音楽と酒に酔い、ひとつになって盛り上がっていた。こんな素敵な空間は他には無いとさえ思った。10代後半のぼくはそんな刺激的で魅力溢れる人達とカッコイイ音楽を求めて、多少のビビりを胸に抱えたまま足繁く「クラブ」に通った。 80年代後半にはそんなサブカルでアンダーグラウンドだった「クラブシーン」だが、90年代に入り「クラブ」での動向がメディアを通して露出されるようになっていくと、それまで「クラブ」といえば綺麗なオネエちゃん達が接客する飲み屋だと思っていたような人達のあいだでも次第に認知されるようになっていく。やがてハコへの集客は伸び、クラブの数もウナギ登りに増えていった。こうして「クラブシーン」は次第に拡大していくわけだけれども、メディアが煽るだけの、「何か」がこの時代のクラブには詰まっていたんだね。その「何か」のひとつが、本コンピレーションに収録されている楽曲の数々なのだ。今となってはタイトルどおりクラシックス、まさに定番と言っても過言ではない。当時に限らず今でもそうだけれども、日本の(東京の)クラブシーンとは言っても、プレイされる曲は、その9割以上が海外のダンスミュージック。それはもう「クラブ」そのものの成立過程から言ってもしょうがないことではある。けれども、そんななかで、キラリと光る日本のアーティストによる楽曲も、今日に至っては相当な数の蓄積が出来てきたんじゃないかと思う。また、本CDに収録されている(11)のムッシュかまやつの『GAULOISE』などのように、クラブカルチャーが日本に上陸する遥か以前から欧米のトレンドに敏感で、リアルタイムにカッコイイ楽曲に対しての再評価も見逃せないポイントだ。クラブシーンが拡大していくなかで、国内アーティストがクラブシーンに目を向けたり、シーンの中からアーティストが生まれたり、過去の楽曲が再評価されたりして、これらがより一層クラブシーンの拡大に拍車をかけるという、よくもわるくも相乗効果をもたらした。もう一度書くけど、その過程において燦然と輝き、裾野を広げる重要な役割を果たしたものの代表曲といえるものがこれらの楽曲なんだ。そして、それらは今なお東京の、いや日本のクラブシーンで愛され続けているのだ。 本CDのオープンニングを飾るのは、現在NYC在住の実力派シンガーMONDAY満ちるの98年のヒット曲『You Make Me』。彼女自身の伸びやかなフェイクで始まるイントロに導かれて爽やかに入ってくるホーンセクションに、懐かしい!って感じで、よく聴いたし、プレイしたなぁ、と思わず感慨。次いではKing Of Diggin'の首領、MUROが2000年に放った快作『EL CARNAVAL』から、フランスはイエロー・プロダクションのTOM&JOYCEによる、ナイスなブラジリアンRMX。(3)はもはや知らない人はいないTowa Teiが94年に放ったアルバム「Future Listening!」から、最大のヒット曲、『Luv Connection』。ミディアムテンポの4つ打ちに抑揚を抑えたクールな女性ヴォーカルがセクシーでアダルトな質感を醸し出す。続く(4)(6)そして(9)はいずれもKJMことKyoto Jazz Massive関連の作品だ。2001年にリリースされた(4)「T.B.D.(JAZZTRONIK REMIX)」では、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのJAZZTRONIKをいち早く起用。ナイスなブラジリアンダンスチューンに仕立て、そして(6)SR Smoothyの98年リリースのアナログ盤のみに収録された『Inside Of You(OGU2040)』はコズミックヴィレッジの沖野修也と吉澤はじめのプロデュースによるアダルトでメロウなクワイエットストリームだ。そしてこれに続く、教授こと坂本龍一が94年夏にリリースした(7)もまたメロウなラバーズ、いい流れね。そして、曲順はちょっと前後するけど、本CDのピークチューンを忘れちゃいかんってことで、(5)MONDO GROSSOの『Still in the rain』。これは97年にヒットした『Laughter in the rain』の別チューンとも言える曲で、ジョージ・ベンソンを彷佛とさせる奏法のギターが前面に出た、超ナイスなジャジーハウスチューンだ。僕の友人のなかには「このころのMONDO GROSSOが一番好きだ!」という奴もいる。まぁ、それくらいカッコイイ、キラーチューンってことかな。そして第2のピークは当然(8)COSA NOSTRAのこの曲『JOLIE』。これはもうクラブを超えたヒットと言ってもいい。94年、世はフリーソウルなるムーヴメントの真只中だった。軽快で爽やかでリズミカルなこの曲はそのムーヴメントにばっちりとハマってしまい空前のヒットとなったのだ。そして本CDの展開はグルーヴィーな様相を呈してきて、先に挙げたK.J.M.(コンピレーションアルバム)による94年のリリース『濱マイクのテーマ』のリミックス(9)、そして今や数十万枚のセールスを記録する東京スカパラダイスオーケストラの98年のシングル『愛があるかい?』のカップリングで収録された(10)『'JAZZIE' SPEAKS』とジャジー・グルーヴの連打で渋?くオトシてくる。そして(11)はこれまた先にも挙げたムッシュかまやつの94年作(オリジナルは75年)。渋くもジャジーかつファンキーな傑作『GAULOISE』。これぞ日本を代表するレアグルーヴ、ブレイクビーツでしょう。クーッ、カッコイイ!シビれるぅ〜!そしていよいよシメ、オーラス(12)を飾るのは、パンク/ニューウェーブの時代より最前線を突っ走る殊勝な才人、そして大の親日派アートリンゼイによる97年のアルバム『Noon Chill』収録のアブストラクトチューン『Ridiculously Deep』でクールに優しくゆったりとラストへと。
ここ日本に「クラブ」という遊びの概念が上陸して、はや十数年。その時代時代によって、「クラブ」は様々に様相を変えてきたけど、そんな時代を知らない人達にこそ、本CDを聴いてもらいたい。このなかの楽曲を聴けば、「こんな曲がクラブでかかっていたんだ〜。」と思うことだろう。「クラブ」をかつての「ディスコ」みたいに画一的でつまらないものにしないためにもね。そしてあらためて今のクラブシーンを見つめてみるといいかもね。DJも客もそこに流れる音楽も、全てが輝いてこそ「クラブ」なんだよね。
2003.05.08
長谷川賢司(gallery)
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1.You Make Me (album version) / MONDAY 満ちる Words & Music : MONDAY MICHIRU Produced & Arranged by Sakura Hills Disco 3000 (a.k.a. Shinichi Osawa) Horn arrangement : Tatsuya Murayama & Shinichi Osawa Horns : Mori Nobuyuki Group Electric Guitar, Synthesizer & Drum Programming : Shinichi Osawa Acoustic Piano & Rhodes : Ken Shima Electric Bass : Gene Perez Recorded by Masashi Hashimoto at Aobadai Studios Additional Recording & Mixing by Dave Darlington for Platinum Audio at MAW Studios Licensed by ISLAND, A UNIVERSAL MUSIC COMPANY
2.EL CARNAVAL Remixed by TOM & JOYCE (Reinterpretation) / MURO
3.Luv Connection / Towa Tei
4. T.B.D.(JAZZTRONIK REMIX) / COSMIC VILLAGE
5.Still in the rain / MONDO GROSSO
6. Inside Of You (OGU 2040) / SR Smoothy
7. Moviing On / 坂本龍一
8.JOLIE / COSA NOSTRA
9.CITY FOLKLORE (REMIX OF THE MAIKU HAMA THEME) ORIGINAL
10.'JAZZIE' SPEAKS / 東京スカパラダイスオーケストラ
11. GAULOISE / ムッシュかまやつ
12.Ridiculously Deep / Arto Lindsay |
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